秘め恋
いけない。思考が犯罪のにおいを帯び始めている。極端な思考をしてしまう自分に危機さえ感じた。このままではまずい。
理性を保つために勉強や早朝ランニングに挑戦したが三日と続かなかった。趣味もない。
解消の手立てがなく、欲求不満は頂点に達しようとしていた。そうしてとうとう、授業中、近くの女子からいい匂いがして体が反応してしまった時は、そこから消えたいと思った。涙が出そうになる。どうにかしてこの苦しさから解放されたい。
くだらない、馬鹿げている、それでいて切実なマサの願いを見透かしたかのような怖すぎるタイミングで、当時イクトと交際中だった同じ学校のリオに接近された。
リオは有名美少女アイドルグループの誰かに似ていると近隣校でも知れ渡っており、イクトと付き合ってからも何人かの他校生に声をかけられていた。リオ本人は一途な性格で、少なくとも〝その時までは〟イクト一筋だった。
リオはイクトのことで悩んでいた。
相談するならイクトのことを最も良く知る相手がいいと考え、イクトと縁の深いマサを校門で待ち伏せていた。
リオはイクトやマサと同じ高校の同級生だが、彼女だけクラスが違う。時々廊下ですれ違ったりするしモテる子なので顔くらいは知っていたが、マサが彼女と言葉を交わすのはその時が初めてだった。
イクトは恋愛事でオープンな反面変なところで秘密を持ちたがり、マサに直接リオを紹介したりすることは一切なかった。
リオの待ち伏せに、マサは不覚にも緊張し別の意味で期待を持ってしまった。自意識過剰と言われればそれまでだが、この時にはもう自分が女子にモテるタイプであることを自覚しつつあった。
リオは学年の人気者。顔も性格も人当たりも良く、男女共に人気の高い、非の打ち所がないパーフェクトな女子だった。
イクトに片思いしていた女子達はイクトとリオが付き合ったことにショックを受けつつ「あの子なら仕方ないよね」とすぐさま諦めモードになり、リオに対し嫉妬ゆえの総攻撃をすることもなかった。リオの日頃の行いが良いからだろう。