秘め恋
民宿やリゾートホテルならまだ自制心が働く。体を休めるための健全な宿泊施設だからだ。ラブホテルは違う。〝それ〟目的に作られた密室だ。そんな場所へアオイと行って、冷静さを保てる自信がない。
アオイの突拍子もない提案に、重たく体にのしかかっていた眠気はすっかり消え去った。そんな男の事情を察せないのか、鈍感なアオイはあっけらかんと言った。
「大丈夫だよ。私なら。それに、マサのこと信用してるから」
信用とか簡単に言うなぁぁぁ! もちろん嬉しいよ? 嬉しいけど、何もできない男って言われてるみたいで、素直に喜べないセリフでもあるんだよ、それ。
こういう状況下でしか発生しない特殊な緊張感を通り越し、大きなため息をつきたい気持ちを何とか抑える。アオイは思いつめたようにつぶやいた。
「こうなったの私のせいだから。あの時指輪を諦めていたらここまで帰りが遅くなることもなかったでしょ? だから、罪滅ぼしさせてほしいの」
「そんなの、ホント気にしなくていいのに」
「マサは優しいね。何でそんなに優しいの?」
「そう言うアオイはホント変なとこ真面目で頑固だね。さすが店長やってるだけある」
「もう! また茶化すー」
「分かった。じゃあ、ありがたく泊まらせてもらう」
アオイと話していたら、とりあえずいやらしい気持ちや妄想はどこかへいってしまった。楽しければそれで全てオーケーなのかもしれない。
まさかラブホ行くことになるなんて思わなかったけど、こういう機会って逆に貴重かも。