秘め恋

 部屋に着いたらシャワーだけ浴びてさっさと寝てしまえば、変な気持ちになることもないだろう。マサはわりと落ち着いた気持ちでアオイの示した派手派手しい建物を目指し運転を再開した。

 高校生の頃、私服だとわりとバレずにこういう場所へ来られた。自室の方が金がかからないのでマサはあまり気が進まなかったが、付き合っている女にラブホテルへ行きたいとせがまれると断れなかった。ケチな男だと思われたくない。要は見栄だった。なので、こんな場所にさして感動することはないと思っていたのに、アオイと訪れるその場所は意外にもワクワクし、初めてラブホテルが楽しいと思った。

「こういうところ、実は初めてなんだ〜。すごーい。こうやって選ぶんだー。なんかどの部屋も可愛くて迷うね」

 ホテルの入口からすぐのひらけた空間に各部屋の写真が並べられたパネルと選択ボタンがついていて、そこを押せば部屋を取れる仕組みになっている。

 アオイは初めての場所に好奇心を大にしていた。ラブホテルに来る時にこんなテンションの女はいなかったとマサは思い、笑いが込み上げてきた。

 ホント色気ないなー、この人。そんなとこも可愛いけど。

 あれもこれもいいと言い部屋を決められないアオイに代わりサクッと部屋を選んだマサは、アオイの肩をさりげなく押してエレベーターに誘導した。そうしている一瞬、本当に恋人同士のような気がした。

 錯覚を長引かせないため、アオイがエレベーターに乗り込んだのを確認してすぐ、マサは彼女の肩から素早く手を離した。

「ありがと。マサはなんか慣れてるね〜」

「普通だよこのくらい。初めてな方が珍しいって。旦那と来たことないの?」

「全然。仁、こういう場所好きじゃなさそうなんだよ」

 アオイの声がわずかに強ばる。
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