秘め恋

 アオイ達夫婦は自宅でしか抱き合わないのだろうか。反射的に想像しかけたところで、マサは思考を引きちぎった。アオイが他の男としている場面なんてカケラも想像したくない。吐きそうになる。

「気持ちがあれば場所なんてどこでもいいんだけどね」

「とか言いつつ、ホントは来たかったんじゃない?」

「だね。今度、仁のこと誘ってみよっかな。でも、男の人ってそういうの引くかな? それは悲しいし、どうしよっかなー」

 アオイはそれきり黙りこくり、マサの方を見ようとはしなかった。

 無邪気な様子でエレベーターに乗ったかと思えば、旦那の話題が出た途端表情を固くして言葉数が減った。アオイの変化を、マサは見逃さなかった。もしかして旦那とうまくいっていないのだろうか。

 いや、それはないか。あんなに必死になって指輪探してるくらいだし。うまくいってなかったら帰りの連絡もわざわざしないだろ。

「着いたね、行こ」

 目的の階層に着くと、アオイは軽い足取りでエレベーターを飛び出した。かと思えば選んだ部屋とは反対方向に行ってしまいマサに引き戻される。

「子供か!」

「ごめーん。広くて迷った」

「むしろ普通のホテルより狭いよ」

「そうなの?」

「そうなの。はい、ここね」

 アオイを誘導しながら何とか部屋に着く。マサは子守を終えた父親のような気分で部屋に施錠し、車のキーをテーブルに置いた。
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