秘め恋

「マサ。シャワーいいよー」

 ベッドの上で全身を弛緩させ無防備に眠るマサに、アオイは何度も声をかけた。

「マサー。このまま寝たら風邪引くよ〜」

「おーい」

「くすぐるよー?」

 あらかじめ忠告してからくすぐってみても、マサは無造作に体をよじらせるだけで起きそうになかった。むにゃむにゃ何かを言っている。

「い……」

「マサ、起きてるの?」

「好きになっていい?」

「何の話かなー?」

「アオイ……。なんでそんなに可愛いの? ずるい……」

 完全に寝言だった。子供のように幼い声音で、だけどはっきりとそう言った。

「マサ、寝ぼけてる?」

 尋ねてみても反応はなかった。どこかで、寝言に答えたら寝ている人にとって危険だから無視するのが正しいと聞いたが、そんな知識は今何の役にも立たなかった。アオイのことを可愛いと言った。マサの寝言は本心なのだろうか。

「マサ。私のことそんな風に思ってくれてたの? いつから? どんなところで?」

 やはり答えはない。寝言の真実味を増すようにマサの寝顔は穏やかだった。

 私の勘違いだって思うようにしてきたけど……。やっぱりマサは私ことを……。好きな人の話も、私に気付かせないためにあえて作り話をしたんだ。さっきあんなに怒ったのも、私を好きでいてくれたから……。

 頬は赤みを帯びる。やがて心地いい鼓動が胸を打ち、その波は全身に広がっていく。マサの胸元にそっと両手を添えると、アオイは彼の唇に自分のそれをゆっくり近付けていった。
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