秘め恋
夢で片付けるのも正直後味が悪い。本音を言えば本当のことが気になる。けれど、真実を確かめる勇気など持てなかった。アオイに尋ねるのは簡単かもしれないが、そんな質問をしてしまえば最悪の結末になる可能性が高い。アオイのキスだとしたら嬉しいが不倫への第一歩になってしまうし、自分の妄想だったらアオイに変態の烙印を押されてしまう。
どっちにしろダメじゃん!
もともと見込みのない片想い。変にリスキーな選択をするよりも、ここは大人しく状況を見守るのが吉だ。
考えているうちに気持ちを落ち着けると、たった今起きたという演技でアオイに声をかけた。
「ごめん、爆睡してた」
こちらに背を向けたままのアオイの肩が、わずかに動いた。起きているのか。
「アオイ、寝た?」
返事はない。眠りかけているのかもしれない。
「俺もシャワー浴びてくるね。おやすみ」
アオイを起こしてしまわないよう小さく声をかけ、適当にルームライトをいじって照明を薄暗くした。掛け布団はアオイの下敷きになっているので、使われていないバスタオルを彼女の体にかける。アオイの寝顔が見えた。すっぴんでも肌が綺麗で、普段のメイク顔とあまり変わらない。
寝顔見れるなんて、来たかいあったな。
バイト中だけでは決して見ることのできない一面を見られて、幸せな気持ちになった。
友達としてでもいい。そばにいてくれてありがと。
こんな柔らかく暖かな気持ちになれるのは恋のおかげ。旦那への嫉妬が消えたわけではない。会えなくなるかもしれない未来を思うと悲しいが、今はマイナスの気持ちになるより明るい気持ちを大事にしようと思った。つらいばかりではない。この恋には価値がある。強くそう思う。