秘め恋
マサが浴室に入る音が耳に響くと同時に、アオイはつむっていた目を開いた。胸の音がドクンドクンとやたら大きく耳に響く。緊張をマサに気付かれやしないかと思い、こわかった。
マサにキスをした後、彼はタイミングよく目を覚ましたので、こちらは思わず寝たふりをしてしまった。なぜキスなんてしてしまったのだろう。友達だと言い張ったはずなのに。
マサの寝顔を見てたら、ただただこの人を独り占めしたいと思ったんだよ。触れたい、って。
マサがかけてくれたバスタオルの端を指先でぎゅっと握りしめ、嬉しいような悲しいような複雑な心地になった。海で泳ぐ前も、日焼けするのを心配して上着をかしてくれた。今もきっと、バスローブに包まれただけの体を冷やさないようにと気遣ってくれたに違いない。マサのそういう優しさに心が溶かされそうになっている。
仕事で帰宅が遅くなった日、メイクを落として歯磨きだけはするものの、疲れているとリビングのソファーで眠ってしまうことがある。朝方、起きてきた仁にそんな姿を見られると、彼は労いの言葉をかけてくれる。
けれど、冷えた体に毛布代わりの何かをかけてくれることは決してなかった。仁はしっかり者で自立心がある。だから、口には出さないがアオイにも自立心を養って欲しいと考えているのだろう。それを察し、アオイは彼に何も要求しなかった。
でもね、そうじゃないんだよ。ただ、疲れた時は労わって労わわれる。そういう夫婦になりたかったんだよ。