秘め恋

 愛を求めすぎなのかもしれない。欲深いのは分かっている。仁は充分夫としての義務を果たしてくれているのだから、これ以上何かを望むなんて強欲だ。しかし、心の中にいまひとつ満たされないものがあるのもたしかだった。

 不満を一つ一つあげていく行為はあえてしないようにしている。夫婦仲に亀裂が入るだけだからだ。両親がそうだった。裕福でも心のつながりは乏しかった父と母。自分はそうはならないと心に誓った。

 けれど、職場でマサに出会い、彼に何かを感じて採用し、仕事を離れた場所でこうして親しくなって、仁との結婚生活で満たされなかった心がじわじわあたたかくなっていくのを感じ、結婚生活でかなりの無理をしていたことを知った。

 マサは優しい。だけど、その優しさは自分だけのものにはならない。だって私は仁の妻だから。人のものを欲しがるほどマサはバカじゃない。今は私のことを好きかもしれないけど、いつかは自分にふさわしい女の子に出会って、今私に向けているような優しさをその子だけに注ぐようになるんだ……!

 そう思ったら、ほんの一瞬だけでもいいから、彼の心に惹かれた記憶を自分の中に残したかった。それが一方的で身勝手なキスという最低の表現方法となってしまった。

「もし結婚してなかったら、私もマサのこと確実に好きになってたよ」

 アオイの独り言は、浴室から響くシャワーの水音と室内に小さく流れるリラクゼーションミュージックにかき消される。

 大胆にキスしてしまう突発的な行動の反面、冷静に自分を分析している。
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