秘め恋
アオイの胸に薄暗いモヤがかかっていくようだった。仁は指輪を失くしたくらいで怒るような心の狭い人間ではない。そう分かっていたが、それでも、言いようのない不安と不信が心に広がるのを止められなかった。
「そっか。私との結婚指輪なんて、あってもなくてもどっちでもいいんだね。だから怒らないんだね。仁は」
『アオイ、どうしたの? 今日は変だよ。いつもそんなこと言わないのに。疲れてるんじゃない? もう遅い。そろそろ休んだら?』
「そうかもね。ごめん、私変だったよね。おやすみ」
中身のない電話だった。そう思いながらアオイは電話を切った。本当に疲れているのかもしれない。未だに他人行儀な空気が抜けない仁との結婚に。
電話を終えると、電話をしていたことなどなかったかのように現実の匂いがした。マサがシャワーを止める音がし、同時にアオイの胸にはそこはかとない孤独感が満ち満ちてくる。
仁にとって、私はやっぱり人生を上向きにするための駒だったのかな?
涙が溢れそうになるのを、ベッドにうつ伏せになり顔を隠すことで我慢した。マサが戻って来た時に泣いていたら心配かけてしまう。