秘め恋
マサがバスルームを出ると、さっきとは違う体勢でアオイがベッドに寝ていた。彼女の体は横向きからうつ伏せになっている。バスローブが彼女の体の線をぼんやり象っていた。
「アオイ、まだ寝てる?」
返事はなかった。
室内の時計を見るとすでに午前三時をまわっている。ここへ来てから時間の流れが急に速くなった気がした。
アオイと過ごす二人だけの時間はもうすぐ終わってしまう。そう思ったら、マサの手は無意識のうちにアオイの頭に伸びていた。起こしてしまわないよう彼女の頭を柔らかく撫でる。ショートヘアのうなじ。髪のなめらかさが指先に伝わる。ただ、そうしていたかった。
今だけこうしてていい? 二度としないから。
眠っているのであろうアオイに心の中で話しかけ、何度も何度も、宝物を扱うように彼女の頭を撫でた。彼女が眠ってしまっていることにホッとしつつも、心のどこかで起きていてほしいと願ってしまうのは何なのだろう。
どのくらいそうしていたのだろう。自分も体の疲れを感じたので、マサはアオイのそばでそっと体を横にした。彼女の体に密着してしまわないよう気をつけながら、頭を撫でられるギリギリの距離を保つ。体勢的に、頭に触れようとするとどうしてもマサの腕はうつ伏せのアオイの背中を包むようになってしまう。
さすがにこれはまずいかな。
バスローブ越しにも充分アオイの体温が分かる。そして匂いも。今は二人とも同じ匂いをさせているのだろうが、自分の匂いよりアオイの匂いの方が敏感に感じ取れてしまう。このままの姿勢でいるのは色々な意味できつい。名残惜しい気分で彼女の頭からそっと手を離しベッドの上で距離を取ろうとすると、
「やめちゃうの?」
アオイが甘えたようにそんなことをつぶやいた。寝言かと思ってしまうくらい小さな声で。