秘め恋

「知らない間にイクトね、バイト始めてたの。だから、いつ連絡してもバイトで忙しいって言って電話もすぐ切っちゃうし、前ほど会ってくれなくなっちゃって」

「ああ、駅前のコンビニでやるって言ってた。でもあれって……」

 言いかけ、マサは口をつぐんだ。

 イクトがバイトを始めたのは、四ヶ月後のクリスマスにリオを突然旅行に連れて行き驚かせるためだった。イクトはそのことをマサにだけ話し、他の誰にも言わないよう強く口止めしてきた。

 危ない。うっかり口を滑らせるところだった……。

 悩んでいるリオに今すぐ本当のことを教えてあげたいが、言ってしまったらサプライズで旅行をプレゼントしようとしているイクトに申し訳ない。

 それに、なんだかんだ言って二人が別れることはないとマサは思っていた。

 イクトは女性経験が豊富だが、リオとは大きな喧嘩もなく長続きしている。女に関して飽きっぽいイクトには珍しいことだ。もしかしたら結婚までいくかも。そう感じるくらい、リオをとても大切にしている。

 学年中の皆が証明している通り、この子はいい子なんだろなぁ。可愛いし。華奢だし。爽やかな雰囲気に反して女の子らしい声だし。イクトがバイトで忙しくても本人に文句言ったりしないし。こうしてこっそり悩みを打ち明けてくるのが逆に健気でいじらしいよね。

 学校とバイトの両立で疲労してまでリオのために頑張るイクトの気持ちが、マサには深く理解できた。

 自分だって、こんな子が彼女だったら理不尽に怒られても頑張ってバイトを続けようという気になる。
< 15 / 186 >

この作品をシェア

pagetop