秘め恋
あくまで友人として振る舞った。そういう自覚だった。
恋とは非常に不思議で、他人の事ならば的確に観察できるのに自分のこととなると客観視しづらくなる。バレていないと思っているのは自分だけだったりする。今のマサもまさにその状態だった。アオイへの好意を寝言でつぶやいてしまっていたなんて、それこそ夢にも考えていない。
ただ、そこで突っ走らないで一旦冷静に思考できるのは、元々の性格がうまく作用した結果と言える。理由はともあれ、避けられている以上、強引に踏み込むわけにはいかないと考えた。
当然、避けられる理由がはっきり分からないことによる戸惑いはある。だが、ここで詰め寄ってもこじれるだけだと思った。だったら、しばらくこのまま観察してみるしかない。
それに、今の自分にはツイッターがある。そこに思いの丈を吐き出してしまえばいい。そしたら多少は楽になれる。
《避けられている。知らないうちに嫌われるようなことをしてしまったかな。前みたいに会話できなくて寂しい》
《置いてってもらった宿泊費、返すつもりだったけどその隙すらない。受け取ってもらえないならせめて割り勘でいいって伝えたいけど……。それすら許されない空気が漂ってる。》
休憩中、現実から目を逸らすような気持ちでそんなことをつぶやいた。
結局その日は、仕事に関する味気ないやり取りに終始し、アオイと笑い合うのはおろか目が合うこともなくバイトは終わった。
いつも通り「お疲れ様でした。お先に失礼します」の挨拶ですませてもよかったが、こちらまでそんなことをしたら取り返しのつかないほどアオイとの距離ができてしまいそうでこわい。なので、マサは一言付け足すことにした。
「お先に失礼します。遅くまで大変でしょうけど、無理しないで下さいね。お疲れ様でした」
そこでようやくアオイは顔を上げマサの顔を見た。……が、アオイが視線を上げる頃にはそこにマサの姿はなく、彼が店の外に出る音だけが残った。