秘め恋
店内再奥の事務所に移動したアオイは、自分のスマートフォンを片手にマサの履歴書を取り出し彼に電話をかけようとした。すると、一通のラインが来ているのに気付く。イクトからだ。そういえば先日、不本意ながらもラインIDを交換しあった。
《アオイちゃん、この前は色々ごめんね。話があるんだけど近いうちに会える?》
話ならラインで。そう返信すると、イクトからもすぐにメッセージが返ってきた。
《「アオイちゃんの大切な物を預かってる」って言っても?》
大切な物って、もしかして……。
心当たりはひとつ。あの日砂浜で落としたかもしれない結婚指輪。マサと一緒に散々探し回ったが結局見つからなかった。イクトが持っていたのか。
イクトと二人きりで会うのは気が進まない。マサの心情を考えるとなおさら会いたくないが、そういうことなら仕方がない。近いうちに会う約束をした。
元々はマサにお礼の電話をするつもりでスマートフォンを手にしたはずなのに、気持ちが萎えてしまう。
「次マサがバイトに来たら、その時に言お……」
その瞬間のことを想像すると胸がドキドキした。裏アカを見つけてしまったことを言うべきだろうか。それは同時にマサの心を覗き見したと言ってしまうようなものだから、黙っておくべきか。