秘め恋
「真琴! やっぱり無理! マサにお礼なんか言えないっ」
真琴の待つ店に戻ると、アオイは声高らかに言った。真琴はうっかりしていたと言わんばかりに目を丸める。
「それもそうだね。お店のオススメだけじゃなく、マサ君自分の気持ちもぶっちゃけちゃってたもんね。そういう意味ではやっぱり裏アカかー」
のんきに言う真琴を横目に、アオイは考えた。
私もツイッターで裏アカ作ってみようかな。
そして、自分の正体を隠してマサの裏アカとコンタクトを取ってみる。ほどほどに仲良くなったところで、それとなく片思いを諦めるよう促してみるのはどうだろう。それがいいはずだ。自分のためにも、マサのためにも。
って、これはただの現実逃避だね。分かってる。私が本当に求めてるものは……。
ツイッターでマサとコンタクトを取るだなんてまどろっこしい方法ではなく、もっと直接的なやり方をする。
「私、けじめつける。マサのためにも、自分のためにも」
「そっか。アオイが決めたことを応援するよ」
「ありがとう。真琴」
真琴がそばにいてくれてよかったと心から思った。店の外にはいつもと変わらない夏の夕方の景色が流れていた。汗を流して歩く人々の群れ。気を抜くと街路樹に張りついた蝉の合唱が耳に響きすぎる。店内は空調で涼しいのに夕日の色が体感温度を上げる気がする。同時に、橙と赤を混ぜた色調はアオイの胸に寂しさを呼んだ。