秘め恋

 翌日の夜、アオイはイクトと会った。気の進まない予定は早めに消化しておくに限る。夜とはいえ、平日のファミリーレストランは客足もそこそこだ。

「アオイちゃん、来てくれたんだね」

 先に来ていたイクトが、レジ付近のテーブル席で軽く片手を上げた。アオイはかたい面持ちでイクトに近付き、椅子に座ることなく、手のひらを彼に向けた。

「拾ってくれて本当にありがとう。指輪だよね。返してくれるかな?」

「まあ、座ってよ。飯まだでさ。アオイちゃんは?」

「じゃあ、飲み物だけ」

「仕事終わったばかりでしょ? お腹すいてない?」

「家で食べるから」

「そっか。じゃあ仕方ないか」

 やや残念そうに肩を下げ、イクトは自分の食事と二人分の飲み物を注文した。

「イルレガーメ、だっけ。アオイちゃんの店評判いいんだね。レビューサイトにも何件かいい感じのクチコミあったよ」

「そうなんだ。そういうのあまり見てなくて」

 普通なら経営者として見なければならないのだろうが、見るのがこわいという思いから、アオイはあえて見ないようにしていた。
< 167 / 186 >

この作品をシェア

pagetop