秘め恋
翌日の夜、アオイはイクトと会った。気の進まない予定は早めに消化しておくに限る。夜とはいえ、平日のファミリーレストランは客足もそこそこだ。
「アオイちゃん、来てくれたんだね」
先に来ていたイクトが、レジ付近のテーブル席で軽く片手を上げた。アオイはかたい面持ちでイクトに近付き、椅子に座ることなく、手のひらを彼に向けた。
「拾ってくれて本当にありがとう。指輪だよね。返してくれるかな?」
「まあ、座ってよ。飯まだでさ。アオイちゃんは?」
「じゃあ、飲み物だけ」
「仕事終わったばかりでしょ? お腹すいてない?」
「家で食べるから」
「そっか。じゃあ仕方ないか」
やや残念そうに肩を下げ、イクトは自分の食事と二人分の飲み物を注文した。
「イルレガーメ、だっけ。アオイちゃんの店評判いいんだね。レビューサイトにも何件かいい感じのクチコミあったよ」
「そうなんだ。そういうのあまり見てなくて」
普通なら経営者として見なければならないのだろうが、見るのがこわいという思いから、アオイはあえて見ないようにしていた。