秘め恋
テーブルに顔がついてしまいそうなほど深々と頭を下げるアオイを見て、イクトは動揺した。アオイが既婚者であるという告白がすんなり頭に入ってこないし、かと思えば必死にマサを庇う姿も腑に落ちない。
こちらは何と答えればいいのだろう。分かったと言えばいいのか、嫌だと抵抗するべきか。
しばらくしてひねり出した言葉は。
「店長として言ってるわりには、マサに肩入れしすぎな気がする。アオイちゃん、本当に結婚してるの?」
「……うん」
「ひどいこと言ってごめん。アオイちゃんは魅力的だけど、だからこそ正直ショックで、今けっこう混乱してて……。マサと付き合ってるの、嘘だったなんて思わなかったから。マサのあんな顔、初めて見たし。認めたくないけど、アイツが本気で選んだ彼女なんだなって」
アオイは衝撃を受けた。
初対面同然のイクトから見てもマサと自分は自然な恋人同士に映っていたということに。
長いようで短かった沈黙を破り、イクトは言った。
「どうしてだろ。気持ちって、隠してても表に出てきちゃうよね。目には見えないものなんだけどそれとなく気配を感じるっていうかさ……」
「そうだね」
イクトの言葉に、アオイは自分の結婚生活を思い返した。そして気付く。仁との暮らしに寂しさを感じたのは生活リズムがすれ違っていたせいではなく別のところにあったのだと。