秘め恋
「イクト君の言う通り。好きの気持ちも、無関心も、口にしなくても雰囲気に出る。そういうものかもしれないね」
仁からの無関心を感じ取っていた。結婚前に抱かれた時も、現在も。どれだけ体温を感じようとも、その奥にある熱のこもった感情を感じ取ることができない。それが寂しさの原因だった。
イクトは言った。
「マサの感情は完全に表に出てた。アオイちゃんのことを好きって思う心が」
「それは私が店長だから。慕ってくれてるだけだよ」
「マサが聞いたら泣くよそれ。ま、俺としてはざまーみろだけど。アイツは一度こっぴどく振られた方がいいね。うん」
イクトは苦笑気味に毒を吐いた。しかし、その口調は海の時とは違い、柔らかさを感じさせる。
「ひどい言い草」
突っ込むアオイも苦笑いを浮かべたが、どこか気持ちは解きほぐれていた。ここへ来る前は気が乗らなかったのに、イクトと話せてよかったという心持ちになっている。
イクトの食事がすむのを待って、アオイは店を出た。今日のイクトの様子を見た限り大丈夫とは思うが、もうこれ以上彼がマサと衝突しないことを願った。
マサには笑っていてほしい。
こんなにも誰かの幸せを願ったことがあるだろうか。全力で仁に恋していた頃も、ここまであたたかい心は持てていなかったように思う。
私、やっぱりマサを好きなんだ……。