秘め恋

 とはいえ、着実に効果は出ている。カフェ好きなユーザーがリツイートしてくれたり、店の常連がツイートを見つけ出していいねを押してくれる。変な言い方かもしれないが、クチコミを広げるこの時間にやりがいすら覚える。マサにとって初めての感覚だった。

 アオイと海に行った日から早くもひと月が過ぎようとしていた。八月も中旬を通り過ぎようとし、マサのアルバイト生活も残りおよそ一ヶ月となった。大学の夏休みは九月末までなので、カフェで働けるのもそれまで。このままアオイとぎくしゃくしたまま終わってしまうのだろうか。

 彼女への気持ちは隠してきたつもりだ。でも、自覚できない部分で漏れていたのかもしれない。それで困ったアオイは、やむなくこちらを避けることにしたのだろうか。

 それも仕方ない。相手は既婚者だし、話を聞いている感じだと旦那に惚れ込んでいる。親友から奪ってしまうほどに。そんな女性に惚れてしまったのがいけなかった。

 そう思おう。それが自然だ。俗に言う不倫という関係にすらなっていない。今なら引き返せる。アオイは単に寂しかったのだ。……そう思おうとしても、できない。あの夜抱きしめあって眠ったことがマサの胸を去来していた。

 忘れられないのなら、もう、好きでいるしかないじゃん。

 ある種の開き直りだった。アオイがどう思っているのかは分からない。もしかしたら、彼女の気持ちはマサにとって不都合な方へ流れた可能性もある。避けられているのがいい証拠だ。

 それでも、はいそうですかと受け入れられる度量をマサは持ち合わせていなかった。持ち合わせる気もない。
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