秘め恋
今後のことなんて分からないし、今を過ごすのに精一杯だが、アオイへの消しがたい気持ちを自覚してしまった以上、なかったことにできないのだけは分かった。だったら、したいようにするしかない。浅はかかもしれない。それでも、やはり、こんな気持ちを持てた自分を肯定したいのも本当だった。
切ないけれど嬉しい。人を好きになるのは、まさに不思議な感覚だった。自分の感情をじっくり観察するように、ライバル店の抹茶ラテを口に含んだ。イルレガーメの同一品より主張の弱いデコレーション、甘い生クリーム。嫌いではないが、アオイの作るイルレガーメ製が一番美味しいとマサは思った。
ま、俺の場合、評価に八割方私情入ってるから、レビューとしては偏ってるけど。
アオイは今も店で接客したり、軽食メニューの下ごしらえをしているのだろうか。想像するだけで愛おしさが込み上げた。あんな細い肩に店の命運を背負っているのだと思うと改めて尊敬の気持ちが湧くし、一学生の身であるが自分もアオイの役に立ちたい。そう思う。
「お客様、お水のお代わりはいかがでしょうか?」
ぼんやり考え事をしていたら、店の従業員がマサの元へやってきた。
「お願いします」
抹茶ラテを飲んでいるし大して水を飲みたい気分ではなかったが、何となく断れずコップ用のグラスを差し出した。
接客の鏡とはこのことか。水を注ぐ従業員の姿の所作は美しく、絵になると言うと大げさかもしれないがとても様になっている。三十代中頃の男性だった。女性受けの良さそうな端正な顔に、作りすぎない微笑が浮かんでいる。一般的に見て気持ちの良い接客をする男だ。