秘め恋
へえ。いい接客。歳的に社員かな。
やや上から目線で批評してみる。アオイの旦那を見たことはないが、こういうタイプなんだろうなと勝手な想像が働いた。積極的に顔を見たいとは思わないが、見えないと見えないで見てみたいと思うのが人情である。
ま、ライバル店とはいっても、この人達はアオイの店のことなど気にもかけていないんだろうけど。
なにせ、ここは全国規模のチェーン店だ。店ごとのオリジナルメニューが数種類あるようだし客層も幅広い。若者受けに特化した個人経営のイルレガーメなど目ではないだろう。
「ごゆっくりどうぞ」
水を注ぎ終えた従業員は軽く会釈をしてマサの席を離れていった。今後、自分でもああいう接客を心がけよう。アオイの全てになることはできなくても、欠片でも役に立てるのならそれがいい。それでいい。
抹茶ラテを飲み終え会計をすまし、店を出た。ビルの多い雑多な歩道をしばらく歩くと、見覚えのある姿とかちあった。
「おお! マサ君じゃーん」
「真琴さん。お疲れ様です」
最近イルレガーメに来た年上アルバイターの真琴だった。真琴はアオイの親しい友人だと聞いている。マサは自然と背筋が伸びた。この人はアオイと自分のことをどこまで知っているのだろう。
「バイト帰りですか?」
「ううん。バイトは休み。院の先輩ん家に行ってきた」
「ああ、そういえば心理学系の大学院に行ってるんでしたっけ」
「うん。昼頃飲みに誘われてね~。ごめんね、けっこう飲んだからお酒くさいかも」
言うほど臭いはなかったが、真琴の顔を見て、ついさきほどまで泥酔していたのだろうなということだけは分かった。ちょうど視界に入る場所に自販機を見つけたマサは、ペットボトルの水を購入し真琴に手渡した。