秘め恋

「おお、ありがとね~。お金はっと……」

「いいですよ。普段のお礼です」

「へ? 何かしたっけ?」

 カバンを探る手を止め、真琴は赤らんだ頬のままポカンとマサを見つめた。

「バイト中、店長と俺の間がおかしくならないよう立ち回ってくれてましたよね。けっこうあれに救われてたとこあるんで。ありがとうございます」

「ああ、そんなことー……」

 真琴は気まずげに視線を泳がせた。アオイがあからさまにマサを避けている様子に唯一気付いた真琴は、二人が仕事をしやすいよう何かと立ち回っていたのである。

「なんか悪いね。でもありがとう。いただきます。酔い醒ましにちょっと歩かない?」

「はい……」

 雑路を抜けた先に、河川沿いに伸びる遊歩道があった。真琴の先導で、マサは初めてその道を歩いた。時間帯的に暗がりなのに街灯が多く、綺麗な景色が広がる場所だった。

「水を見てると気持ちが落ち着くよねー」

「はい。何でですかね」

「ああ、それね。人は元々海の生き物だったからって説があるよね。それと、お母さんの胎内にいる時を想起させられるからって説とか」

「へえ。そうなんですね。初めて聞きました。真琴さん、そういうことよく知ってますよね」

「かなぁ。無駄に好きなんだよね、そういう小話」

「無駄って。聞いてて楽しいですよ」

「そう? なら私も嬉しいよ」
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