秘め恋
「結婚する。その行為自体は実は簡単なんだよ。双方に気持ちが伴ってなくても婚姻届に印鑑を押して役所に持っていけば完了させられる。気持ちがあってもなくても可能な作業」
「そう言っちゃうと元も子もない気がしますけど、たしかにそうかもしれないですね。俺達のおじいちゃん世代くらいの人達は今の人達と違って見合い結婚が当然のようだったって、親戚も言ってたし」
「アオイもそう。それを分かってて今の旦那さんと結婚したはずなんだけど、今になって自分がしたことの虚しさを実感しはじめてる。相手の気持ちは婚姻制度で縛れないことを。婚姻届には愛情を引き出す効力なんて微塵もないということを」
「そうだとしても、今は旦那と上手くいってるから俺を避けてるんじゃ……」
「そうだね。そうかもしれない。夫婦のことは夫婦にしか分からないし。ただ……。似た者同士だし、アオイとは付き合いが長いから、あの子の考えが手に取るように分かってしまうんだ。口にされなくても」
「真琴さん……」
真琴が何を言いたいのか、マサは分かった。
「幸せになってほしいんですね。アオイに」
「そういうこと!」
真琴は苦笑した。
「私の身勝手極まりないんだけどさ。アオイには、胸を巣食う孤独から脱却して自分を取り戻せる真の幸せを手にしてほしいんだよ。そしたら私も少しは未来の人間関係に希望を持てるかもしれない。解せない過去を昇華できるかもしれない」
「真琴さんの気持ちは分かりました」
マサはゆっくり真琴の気持ちを飲み込んだ。
真琴のように気さくな人でもそんな孤独を抱えているんだな。正直、意外だった。