秘め恋
「ははっ、情けなー……」
ださくて無様で報われない。その上どうしようもない独りよがり。一方的に膨らむ独占欲。感情のまま狂ったように大声で叫びたくなる。それらはもれなく片想いがもたらす副作用なのだと、激しく思い知る。
真琴さんの応援があったって、アオイにその気がなければ意味ないよ。
河川から流れる静かな波の音。先日の大雨のせいか、水の流れはやや激しい。まるで自分の今の気持ちだとマサは思った。高校時代までとはまた違う、こんなに汚い身勝手な心が自分にもあったなんて。
「今なら、あの頃のイクトの気持ちがよく分かる……」
両手で欄干を強く握り、内から込み上げる悪い感情をなだめようとした。今はまだ大丈夫。この感情を知るのは自分だけなのだから。なかったことにすればいい。アオイに知られてしまう前に消してしまおう。
消えろ。消えろ。
独占欲も、恋情も、全てを握りつぶす勢いで欄干を強く握った。両方の手のひらが熱くなり、こめかみからはだらだらと汗が流れた。この上ない不快感が全身を覆う。
「…………!」
スマートフォンの着信音が鳴った。やけに大きく耳に響いて、反射的に体がびくつく。発信元を見て全身が強ばった。
「アオイ……?」
バイト先のイルレガーメからの電話だった。バイト同士でのシフト交換の相談は基本的にラインでやるので、店から直接電話をかけてくるのは店長以外にいない。それにアオイとは個人的な連絡先のやり取りをしていないから、直接連絡してくるとしたら店の電話から以外ありえない。
とはいえ、仕事の件で連絡が来たことは今まで一度もなかった。あるとすれば、バイトの面接の合否を伝えてもらう時くらいだった。イルレガーメの番号を登録していたのもそのためで、普段は番号登録していたのを忘れているほどだ。
ってことは、個人的な話で電話してきたんだよな?
マサは電話に出るのを迷った。留守番電話に切り替えてしまおうかと思ってしまう。避けられている手前、いい話題ではないだろうから。