秘め恋

「まあ、そんなわけで俺は学年一の嫌われ者になったわけですね」

 他人事のような口ぶりで話を締めつつ、マサはひどい疲れを感じていた。今になってようやく気付いてしまった。アオイへの苦手意識はリオの件から来ていることを。

 吐き気がするほど似てるんだよ、この人、リオちゃんに……。見た目と声だけじゃなく、男女共に魅了する不思議な好感度までさ。カンベンしてよ……。あの手のタイプとはもう二度と関わりたくないんだよ。

 かつてはものすごくタイプの女性だったのに、今ではどんな嫌いな食べ物より嫌悪を覚えてしまう対象。

 自己分析してみたところでアオイへの苦手意識は無くならず、むしろ深まる。

 自分が原因みたいなものなのでアオイのせいにするわけにもいかず、かといって自身のことばかり責めるのもつらく、うまい言い訳を探してみても見つかるわけもないし、思考は堂々巡りだ。しっかり傷を見つめる勇気もないのに、あの時のショックは確実に残っている。

 どうにかしてこの感情を消化しないとアオイへの苦手意識もそのままだろう。それだけは分かる。

 しかし、苦手意識を克服して何になるというのか。別にこのままでもいいではないか。マサはアオイとどうにかなりたいとは思っていない。ただのバイト先の店長、それだけだ。友達になる可能性も低い。

 そもそもアオイは結婚している。今さら男友達など必要としないだろうし、もし男を頼りたくなったら旦那をアテにするはずだ。

 ま、その方がいいけどね。

 リオの時みたく、アオイに対しては妙な心配をする必要がない。苦手意識はしょうがないのでそのまま放っておけばいい。それでいいではないか。

 バイトは夏の間だけ。秋が訪れ後期の授業が始まる頃には辞められる。アオイもそれを承知で雇ってくれた。
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