秘め恋
いや、違う。今だけじゃない……!
この先ずっとショートカットの中性的な女性を見るたび苦手意識でうろたえなければならない。そのことに気付いてしまった。気付きたくなかった。
マサは絶望の淵(ふち)に立たされたような心地がした。
今俺どんな顔してんだろ。すっげえダサいことになってる気がする。こんな顔、歴代彼女にも見せたことなかったのに。まいった……。
「よく頑張ったね。逃げずにさ。偉いよ」
わずかな動揺も見せず、アオイは気丈にそう言った。涼やかで明るい彼女の声は、真っ暗な谷底に落ちていきそうだったマサの心を寸前の所でふわりと掬(すく)い上げた。掬い上げられた先は頑丈で光射す足場だった。
「マサは悪くないよ」
微笑し、アオイは言った。
「私が保証する。マサはよく頑張ったよ」
お世辞でも変な慰めでもない。アオイの言葉は心から出たものだとマサは直感した。
直感ではなく、そう思いたいだけかもしれない。苦手な女が放つ優しいセリフなんて、悪意ある毒舌より後味が悪い。そのはずなのに、今マサはひどく安心していた。
そっか。誰でもいいから、ずっと誰かにそう言ってもらいたかったんだ。頑張ったね、って。
たまたまそばにいたのがアオイだった。たまたま彼女の前で過去を振り返ってしまった。それでよかったのかもしれない。
許してもらおうだなんて思ってはいないけど、リオとイクトの件で傷ついた気持ちを自分以外の誰かに受け止めてもらいたかった。