秘め恋
らしくない会話

 『二人だけの秘密にしてね』

 口調こそ普段通りサバサバしていたものの、アオイの言葉は甘い蜜のように気持ちの細部にまで絡みつくように感じられ、マサは妙な気分になった。

 それは喜びとも戸惑いとも違う、初めて覚える心地だった。

 子供の頃、似たような感情を持ったことがある。大人に隠れ同級生の仲間達と小さな悪事を働いた時だ。犯罪と言うほどおおげさなことではないが大人に見つかったら間違いなく叱られるギリギリのライン。

 取り返しのつかないことをしてしまったという背徳感と、自分の奥底から掘り出された未知の部分に遭遇した快さ。

 そうした秘密を共有した者同士は、その関係性が友情にしても恋愛にしても親子間であっても連帯感が増し絆も深まると、世間ではよく言う。

 アオイにそんな意図があるのかどうかは分からない。他のバイト達に知られたら印象の悪くなりそうな過去なので伏せておきたい、ただそれだけなのだろう。だからこそ、口止めされることでマサが特別感を覚えてしまったのも否めない。

 なんで俺には話してくれる気になったんだろ。

 アオイの打ち明け話を通じて、バイト先の店長としか見ていなかった女性の人間性を垣間見た気がする。

 もちろんそれがアオイの全てではないだろう。丁寧な仕事ぶりや好感度の高い接客、柔らかな人当たりも彼女の持ち物だ。

 しかし、だからこそ、親友を出し抜いた過去を告白するアオイを悪には思えず、むしろ、そうして堂々と汚点を話してしまえる潔さが彼女らしいと、マサはプラスの感情を覚えた。
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