秘め恋

 普通、そんなプライベートなことバイトに話すか? 店長らしいと言えばらしいけど。根が真面目なんだろなー。俺と違って。当たり前だけど、やっぱりこの人、俺とは違うタイプの人間なんだな。

 その思いは決して否定的なものではなく、むしろそこはかとない親近感をアオイに対して覚え始めた。

 ほんの数分前まで苦手意識しかなかった相手なのに、それが嘘のように今は彼女への興味関心が湧く。それは、何十年にも渡って水分が枯渇していた泉に突如水が湧き出してくるかのごとく激しい変化だった。

 凝り固まった苦手意識が穏やかに霧散していく。すると、アオイに対する様々な疑問と好奇心がマサを饒舌(じょうぜつ)にさせた。

 これまでは苦痛でしかなかった二人きりの勤務時間が、今となってはとても好都合に思える。暇ゆえに接客の機会も少なく会話に集中できるからだ。

「内緒にしてほしいのはこっちも同じなんでお互い様ってことで。まあ、俺のことはどこかからバレてもおかしくないんで別に隠す気もなかったですけどね。でも、どうしてそんな話を俺に? 店内で悪評広められるーとか思わなかったんですか?」

「マサ、そんなことするの?」

 思いやるような、それでいていじけたようなアオイの視線にマサはドキリとした。店長のこんな表情を見たのは記憶の限り初めてである。まるで、彼氏に無理めなおねだりをして駄々をこねる少女のようなその口ぶり。気を許した相手にしか見せないであろう女性特有の甘い声音も、理屈抜きにマサの心をくすぐった。
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