秘め恋
「べ、別に言いふらしたりはしませんけど。でも、最近知り合ったばっかのバイトにする話でもないでしょ」
「そうかもしれないけど……。マサの話が嬉しかったの」
優しくつぶやくように答えると、アオイは困ったように微笑む。
俺の話が嬉しかったって、え? どのへんが?
店長の言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
「人の黒歴史が嬉しかったって。店長、サラッとひどいですね」
「ちっ、違う、そうじゃないよっ! ごめんね、言い方間違えたっ」
テンション低くツッコミを入れるマサに、アオイはうろたえ顔を真っ赤にした。
「そういうプライベートな話をしてもらえたのがとても嬉しかったって言いたかったの!」
最初からそう言えよっ。グダグダだな!
心の中で容赦ないツッコミを入れながらもマサの表情はみるみる柔らかくなる。アオイはおろおろと言葉を継いだ。
「マサさ、面接に来てくれた時から何か悩んでそうな顔してたから。私の考えすぎならいいんだけど、最近のマサ見てたらやっぱり心配で」
再びマサの胸は激しく高鳴った。ここでは極力仕事に専念していたつもりだ。それに、悩んでいても体調が悪くても平然と振る舞うのが得意な方だと思ってきた。
それなのにアオイには見抜かれていた。しかも働く前から。
たしかにその通りで、大学生になってからもイクトとの壊れた関係を憂いていた。高校を出たら一人暮らしを始める。そうやって生活圏が変われば少しずつ過去のことは忘れられると期待していたがそうもいかなかった。