秘め恋

 通う大学は違うし学校同士の距離も離れているのに、イクトとは同じ市内のアパートになってしまった。居住地もわりと近く、互いのアパート間は徒歩十分あるかないかといったところだ。

 浅い関係ながら親同士にも交流があるのでイクトが一人暮らしを始めるらしいということは春休み中に自分の親から聞いていたが、まさかこうも近所に住まれるとは思っていなかった。

 賃貸会社の都合やイクトの親の懐具合などなど様々な条件が重なった末の偶然なのだろうが、イクトの執念が引き起こした現象に感じられた。それなので、通学時や夜にふらっと立ち寄る近所のコンビニなどで偶然イクトと顔を合わせてしまう。

 二人のアパートがある地域はコンビニ激戦区である。それをうまく利用してなるべくイクトに会わないよう、マサは毎度毎度違うコンビニに足を運んでみるのに、幸か不幸か気の合う二人は行く先々でしょっちゅう顔を合わせてしまう。

 そのたびイクトはマサを睨みつけた。それだけならまだマシで、機嫌の悪そうな時には大きな声でわざわざ「げ。最悪」「消えろよクズ」などと言い、舌打ちまで付け加える日もあった。周囲に人がいてもおかまいなしでそういうことをする。

 イクトの目にはマサしか入っていないかのようだった。人の視線を感じると、マサはなおさら気まずい思いをした。

 リオに対しては納得いかない思いもあったが、イクトに関しては全く違った。

 どれだけ悪態をつかれても彼を嫌いになれなかったし、できれば和解して前のように仲良くしたいとすら思った。それが無理なことも頭では理解している。しかし、マサはイクトとの友情に未練があった。
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