秘め恋
イクトは昔から何かとマサを助けてくれた恩人で、なのに恩着せがましくなくて、だからこそ人望も厚いのだと知っている。
助けてもらったと言ってもそんなおおげさなことではない。宿題を忘れた時に手伝ってくれたり、教師に注意された時にさりげなくかばってもらったり、そういうささいなことの積み重ねだ。
最も大きかったのは、仕事で不在がちな両親に寂しさを感じていた時、いつでも遊び相手になってくれたことである。そばに頼れる親戚もおらず自ら積極的に友人を誘うタイプでもなかった一人っ子のマサにとって、能動的なイクトの存在は大きかった。友人の多いイクトにあやかって大勢での遊びにも参加できた。
おかげで孤独を感じることなく子供時代を過ごせた。イクトがいなければ、自分はもっと心の寂しい人間になっていたかもしれない。大げさかもしれないが本気でそう思っている。
きっと、イクトからしたら大した行いではなかったのだろう。家が近いというだけで気まぐれにマサを誘っていただけなのかもしれない。彼は誰にでも平等に優しいし情が深い男だ。面倒見もいい。人の悪口や陰口も一切言わなかった。そこまで仲良くないクラスメイトにも明るく挨拶したり気さくに雑談をできるようなタイプだった。
だからこそ嫌われるのがつらかった。そんなイイヤツに恨まれるのは色々な意味できつい。自分がこれ以上ないほど最悪の人間だと思い知らされる。
まあ、最悪の人間なんだけどさ。欲求不満だからって普通親友の彼女とヤらないよな。俺だって自分で自分がおかしいと思うよ。イクトがキレるのは当たり前。
こうなったのも仕方ない。自分のせいなのだから。