秘め恋

「そのためなら自分の過去だって必要に応じて話す、そういうことですか?」

「イエス!」

 サムズアップをし、アオイは満面の笑みをマサに向けた。

 それは店長としての微笑みで、それ以上でも以下でもない。理解できる。それでも、今のマサにとっては充分すぎるほど癒される対応だった。

 大学に入って新たな友達が出来たとはいえ、高校生活の半年ばかりを孤立した状態で過ごした。そんな経験があると、人の優しさや気遣いがいかに貴重なものかを思い知る。

 だから、大学での友達やバイト先での出会いを出来る限り大事にしたいと思うし、仲良くなった相手を裏切るようなことは二度としないと決めている。

 人の笑顔も、優しさも、当たり前のものじゃない。俺はそう思う。

 店長ってリオちゃんに似てると思ってたけど全然違う。リオちゃんは自分の非を隠したけど、この人は自分の嫌な部分を認めてさらけ出すこともできる。そうしたのは俺のためだって言ったけど、ただ励ますだけなら適当に話を合わせておけばいいしその方が店長にとっては楽なはずなのに、店長自身のことを隠さず話してくれた。なかなかできることじゃないよな……。

 どちらかと言えばマサはリオ寄りの人間だ。マサだけでなく多くの人々がそうなのだろう。他者から非難されそうな過去を公表するなんてデメリットしかないように思える。

 その一方で、アオイのような人間もいるとマサは知った。

 時間にしたらほんの数分。短い会話だったが内容は濃厚で、アオイへの評価をみるみる上げていくのに充分な要素だった。

 それは、アルバイターとして店長を信頼する第一歩になると同時に、アオイに対する個人的な興味をも引き出した。

 この人は親友を傷つけてまで今の旦那を選んだ。どうしてそこまでしてその男がほしかったんだ? 学校にいたら普通にモテそうだし、結婚相手にも困らなさそうな人なのに。

 その気になって婚活パーティーとかに参加したら人気ナンバーワンの座をかっさらってしまいそうだ。旦那になった男にそうとうな魅力があったとか?

 元は店長の親友が片思いしてたってくらいだし、スペック高そう。どんな男なんだろ。やっぱりイケメン?
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