秘め恋
知らず知らず眉間に皺を寄せているのに気付きもせず、マサは腕組みした。アオイは気遣わしげに、そして明るくマサを見上げた。
「言ったそばから、もう難しい顔してるー。どうしたー?」
「あ、いや……。近々ちょっと面倒な予定があって」
「あー、それは難しい顔にもなるよね。分かるよ。憂鬱だよね」
「あの……」
「うん?」
「やっぱいいです」
「えー? 気になるー。何?」
そうして微笑むアオイは、やはりいつもの明るい店長そのものだった。客に好かれてバイト達にも好かれて、気さくで、心から仕事を楽しんでいる人間独特の余裕がにじみ出ている。
それなのに、マサの目にはまるで違う印象に見えた。
こんなに可愛く笑う人だった……?
自分の中に生まれた新しい印象を打ち消すように、マサは思い切って店長を誘うことにした。
「今度、一緒に海行ってくれませんか?」
「おおっ、突然だね。海?」
「例の親友とその彼女に誘われてるんですけど、あいにく今連れてけるような子がいなくて。店長結婚してるし、旦那さんの反対もあるだろうし、海って日焼けするし、嫌なら断ってもらって全然いいんで、どうですかね?」
我ながらグダグダな誘い方だと、マサは思った。ホテルや自室に誘う時はもっとスムーズに女を誘導できていたはずだ。それに比べたら海なんてハードル低い目的地なのに、なぜこんなにもぎこちなくなるのだろう。
ヘタクソか。