秘め恋
無駄な緊張感が湧くわりに、その緊張感の理由も意味も見出せない。バイト先の店長だから妙にかしこまってしまうのだろうか。
狙いの女を落とすわけでもないのだから別に断られてもかまわないと気楽に考えていたのに、誘った瞬間断られるのがこわいと感じている。
断られたらアオイに対して気まずくなってバイトしづらくなりそうだと、根拠なくマイナス思考が働いた。
バイトに来られなくなるのは嫌だ。
こづかい目当てで始めたバイトだが、ありがたいことに親から充分な仕送りをもらっているので今バイトを辞めたって金に困ることはない。それなのになぜか辞めたくないと思ってしまう。
盛り付け方がオシャレで美味しいこの店のメニューとまかないに魅力を感じているのは確かだが、そこまで食にこだわっていたわけでもない。
とことん自分が謎だった。
わずかな沈黙。
断られる予感がし、マサはしきりに自分の口元を人差し指の折り目でさすった。気持ちが落ち着かなくなると無意識にやってしまうのだ。
マサはアオイの顔を盗み見た。
彼女の視線は迷うように泳ぎつつ、未知なるものへの好奇の光が見て取れる。それが意外で、そしてみるみる喜びが湧いてきて、マサはジッとアオイの答えを待った。