秘め恋

 イクトのもくろみが透けて見えるダブルデートはやはり気が進まないが、車の運転をすることだけはひそかな楽しみだった。

 大学までは徒歩数分の距離なので車を出す方が逆に面倒で、普段は徒歩移動ばかりになっている。なかなか車に乗れる機会がないので、なおさら運転したくてウズウズしていた。

「気持ちは嬉しいけど、男の人に見られながら買うの恥ずかしいからさ。大丈夫だよ」

 頬を薄く染め、アオイは照れたように笑った。店長のそんな顔を見ていると、マサにまで照れくささが移った。

 それに、さっきは年下の子供扱いをしていたのに、今になって突然男性扱いしてくるなんて、その線引きがどこで成されているのか分からないがくすぐったい。決して嫌ではないけれど。

 そっか。見られながら水着買うのって恥ずかしいんだ。

「でも、結局海で見ますよ?」

「そうだけど、それとこれは別なのっ!」

「へえ、そうなんだ」

 アオイの困った顔が見たくて、マサはわざとからかうような口ぶりで言葉を投げる。

 敬語のみで会話していたこれまでと違い、たまにタメ口を挟めるくらいには心理的距離が近くなった。

 憂鬱だった海イベントが、少し楽しみだと思える。それは全てアオイのおかげだとマサは思った。









< 36 / 186 >

この作品をシェア

pagetop