秘め恋
だからといって諦めるわけにもいかなかった。
イクトの前でこんなこと言える立場ではないのは重々承知だが、マサにも男として見栄を張りたい気持ちが少なからずある。大学生になって初めての夏休みに恋人もなく一人寂しく過ごす男のレッテルを、イクトとイクトの彼女に貼られたくなかった。
とはいえ、しつこいようだが都合よく呼び出せる女友達のアテはない。このままではイクトの狙い通り、マサはカップルのラブラブデートについて行く空気の読めないぼっち野郎になってしまう。
イクトがその展開を望んでいるのは明からだが、イクトの彼女までもがそうとは限らない。むしろ「なんで一人で来てるの? だったら私イクトと二人きりの方がよかった。この人超邪魔なんですけど」と思われかねない。それだけは嫌だ。
何としてでもイクトの思惑通りにならない方法を見つけねば。
考えは堂々巡りで、一向に解決する気がしない。バイト中だというのに、皿洗いが終わるなりカウンターに両手をついて頭をだらしなく下に向ける。
「恨むのは分かるけどやり方エグいんだよォ……」
マサの囁きに反応したのか、あからさまにやる気のない言動を咎めに来たのか、接客を終えてカウンターに戻ってきた店長のアオイは訝しげにマサの顔を覗き込んだ。
「マサ、仕事中だよ。しっかりして」
「すいません」
「もう。しょうがないなぁ」
謝る気のなさを隠さないマサのうなだれた声音に肩をすくめつつ、アオイは苦笑した。