秘め恋
そういえばここ数日、アオイは旦那の顔すら見ていなかった。互いに仕事の時間も生活ペースも違う。夕食も別々に摂ることが多い。
そういったことはもう結婚する前から分かっていたので文句を言うつもりはない。共働きで金銭的に余裕があるので、家事もハウスキーパーに任せている。家の中は快適だ。何の不満も悩みもない。
顔を合わせれば穏やかに会話できる。コミュニケーションが少ないとはいえ、夫婦仲は順調な方だろう。
今、仁が忙しいのは、私との未来のために頑張ってくれているから。理解してるよ。寂しがったり、しちゃいけない。
自分にそう言い聞かせてみるものの、やはり肌寂しさや心の空白は日に日に募っていく。
裕福な家に生まれ育ったが、両親が多忙を極めていたため家族の団らんなどした記憶がない。そのためか、幼い頃からアオイの心には常に人恋しさがあった。
結婚後すぐオープンさせたカフェも、親の資金援助があって成り立った。両親にはとても感謝している。生まれ育ち全てにおいて自分は恵まれているのだから、何一つ文句は言えない。言ってはいけない。
「はあ……」
無意識のうちにため息をついてしまう。
あれでもないこれでもない。何とかしてマサとの約束前に水着を選ばなければならない。売り場を右往左往していると、売り子の女性に引き止められ、迷っているようなら一緒に選ぶと告げられた。
学生の頃だったらありがた迷惑に感じた店員の声かけも今は邪険にできなかった。今は人の力を借りたい心境だったし、自分も店長として働く手前、売り手の立場や気持ちが少しは分かるつもりだ。