秘め恋
私ばかり弱音吐いたり悩みを聞いてもらってる。仁はそういうの一つもないのかな。私のせいで無理してる? ……って、ダメダメ。考え過ぎ。
ネガティブ思考を断ち切るようにスマートフォンを手にした。二件の着信が来ている。親友の真琴(まこと)からだった。
真琴は仁を好きだった親友とは別の女性で、高校時代から気が合い今でも仲良くしている。一応店内なので周囲に気を遣いつつ、なるべく小さな声で折り返しの電話をした。
「もしもし。電話出れなくてごめん。どうしたの?」
『アオイの店さ、ちょっと前に人手不足って言ってたじゃん? 今はどう?』
真琴の口調はいつも通り脱力感満載だったものの、わずかに焦りを帯びていた。
「人手ね、大学生の子が何人か来てくれてるから、夏の間は大丈夫そうだよ」
『そっかー……。よかったね。じゃあ他当たるわ』
「どうしたの?」
『いやー、急過ぎてホント困ってるんだけど、今のバイト先今月いっぱいで閉店するって言われてさ。やばいよォ』
「本当に!? 裏通りの書店だよね。けっこうお客さん入ってたのにどうして……」
『出版業界も厳しいからねー。万引き被害もあるしさ』
世知辛い世の中である。
臨床心理士を目指している真琴は、大学の心理学部を修了後、大学院生をしながらバイトをし、大学時代から同じアパートで一人暮らしをしている。勉学に励むかたわら生活費の足しにするべく大型書店でバイトをしていたが、その生活リズムが崩れそうだという。