秘め恋
仕送りはもらっているものの無理して大学院へ行かせてもらったので、親には極力お金のことで負担をかけたくない。以前真琴はそう言っていた。
仁と付き合う前も結婚後も、真琴には何かと勇気づけられてきた。
唯一無二の親友が困っている。アオイは真琴の夢を応援しているし、彼女を助けたいと思った。
シフトは今のバイト達だけでも充分回せるが、一人増えてもさして問題なかった。カフェと書店は違うかもしれないが、接客の経験がある真琴ならカフェでの仕事にもすぐ慣れることができるはずだ。
「そういうことなら、うちに来る?」
『いいの? でも、かえってアオイが困らない?』
「平気だよ。むしろ助かる。一人で回さなきゃいけない時もあるからさ」
『ありがとー!! 今度お礼するからっ』
「いいよそんなの。困ってる時はお互い様」
友人待遇とはいえ、一応面接したことにしなければ他の従業員に示しがつかないので、形式的な面接の約束をした。履歴書も持って来るよう伝えると、真琴は電話の向こうで熱心にメモを取り、話がひと段落ついたところで質問を挟んだ。
『仁君とはどう? 最近コミュニケーション取れてる?』
「うん。まあ、ラインでは」
『そっか。相変わらず忙しいんだね』
「うん、そうみたいだね。あはは……」
アオイは曖昧に笑って返事を濁した。結婚後もすれ違い気味の生活を送るアオイ夫婦のことを真琴は心配していた。それでアオイが寂しい思いをしていることも察している。
「ありがとね、真琴。私なら大丈夫。最近仕事先で気の合いそうな子がいてさ。おかげで、仁のいない寂しさも少し和らいだんだ」
『そうなんだ、よかったね。そういうのホント大事だよね。タメの子?』
「ううん。五歳年下の男の子」
『ええっ! 年下なのはいいとして、男!?』
真琴は珍しく驚きをあらわにした。心理学を学んでいるからか、元からそういう要素を備えていたのか、真琴は出会った頃から達観しており多少のことには動じない淡白な女性だった。
そんな親友を驚かせてしまうなんて自分はもしかしてとんでもないことを言ってしまったのではないかと、アオイはようやく気付いたのだった。
「大丈夫。男とか女とか意識しあう関係じゃないから。絶対それはない」
『それ恋愛フラグ〜。男女関係になる人達が事前に言っちゃうセリフ上位に入るやつだよ。アオイが仁君に一途なのは分かってるんだけどね。大丈夫?』
真琴の心配。それは、年下バイトと変な関係にならないかという疑問だった。
アオイはそれを理解しつつも深く捉えず軽く受け流した。仁以外の男性に心動かされることなどない。確たる自信がある。