秘め恋
「ないよ、そういうのは。仁以外に目を向ける気はないし、第一、その子モテるし。たとえこっちが意識したとしても、向こうは私のことなんか全然眼中に入れないんじゃないかな。でもね、いい子なんだ。不思議と気が合うっていうか、前までは距離があったんだけど今は近くて。色々困ってるみたいだから頼られると嬉しいんだ。純粋にそれだけ」
『そうなの? それなら大丈夫か。ところで今何してるの? 暇なら飲まない? 美味しい店見つけたんだー』
「今、水着買ってきたとこ。飲み、いいね。これからそっち行くよ」
『え、水着って海でも行くの? 今年も紫外線かなりやばそうだけど』
アオイは色白で、長時間日焼けすると肌が赤くなってしまう体質だ。高校の頃同じグループに属していた真琴と女子数人で海に行ったが、日焼け止めを塗ったにも関わらずアオイの背中や腕の皮膚は太陽光のダメージを存分に受けベリベリにめくれてしまった。
その跡は三年ほど残り、アオイが肌にコンプレックスを持つ原因になってしまった。以来海水浴やプールには行かないようにしていたし、真琴もそういう計画は立てないようにしていた。
仁もそのことは理解しているはずなのになぜそんな妻を海になど行かせるのか。心配する真琴の心境を察し、アオイは明るく答える。
「多少ダメージ受けるだろうけど、徹底的に対策してくから大丈夫。あの頃と違って今は飲む日焼け止めもあるしさ」
『そうだけど……。もしかして、一緒に行くのってそのバイトの子だったり?』
「うん。その子のプライベートに関わるし詳しくは話せないけど、誘える相手がいなくて困ってるみたいだったから。それであの子が助かるなら一緒に行ってあげたくて」
アオイの声音には姉然とした優しさと、ほんのり明るい未来への展望が浮かんでいるようだった。そんな親友の声を聞き、真琴は戸惑った。