秘め恋
結婚相手が決められているものの、それを無視するかのようにアオイは恋愛に憧れを募らせてきた。幼少期に親との触れ合いが少なく寂しい思いをしたので人の好意に飢えていたのもある。
そういった心理が良くも悪くも思春期頃には顕著になり、言い寄ってきた男子の告白を断れない性格を作り上げた。しかし、いざ交際となると器用に振る舞うことができず、すぐ別れてしまうはめになった。どうも女としての色気がないらしい。
アオイの容姿に惹かれて告白してきた男子陣は皆、彼女の外見と内面のギャップにことごとく幻滅した。
『もっと女らしいと思ってた。なんか違うんだよ』
『他に気になる子できた。悪いな』
『ごめん。アオイのこと妹としか思えないや』
それもそのはず。異性に免疫がなく、ただ断れないという理由で交際している相手に女らしさなど見せられるわけがないし、見せる術も知らない。
恋愛感情があって付き合ったのなら別かもしれないがそんな経験アオイには皆無なので、男子に好かれる振る舞い方や望まれる言動など何一つ分からない。
せっかく告白してきてくれたのだから、とにかく相手を退屈させないようトークを盛り上げ、話題を探し、普段の自分以上にサバサバした言動を取っていた。そしたらそれは彼らの望む彼女像ではなかったという。アオイの気遣いは空回りしたのである。