秘め恋

 失意のどん底にいたまさにその時、

『大丈夫。今はつらいかもしれないけど、そいつとは縁がなかっただけ。アオイちゃんのことを理解してくれる人がきっといつか現れるから。無理に忘れなくていいから、今は思い切り泣きな』

 親身に励ましてくれた、仁の人としての優しさに心底惚れてしまったのだ。その時、仁の傍らには当然玲奈がいて、彼女も同じような言葉でアオイを励ました。

 優しくしてくれる友達がいて幸せだ。嬉しい。そう思うものの、アオイを元気づけたのは旧知の親友ではなくその恋人の存在だった。

 仁を好きになるのに時間はかからなかった。異性との交際経験ばかり重なったものの、アオイが本当に人を好きになったのはこの時が初めてだったのかもしれない。

 玲奈と仁はアオイの気持ちの変化に気付かず、失恋して落ち込んでいるであろうアオイを励まそうと色んな場所へ彼女を連れ出した。友人としての好意だと分かっていても断らなければならない。でないと仁への気持ちが大きくなっていってしまう。

 だけど、仁に会えるなら理由なんて何でもよく、アオイは結局二人の誘いを断れなかった。断らなかった。断りたくなかった。

 マサには「親友の片想い相手を奪った」と話したが、それは半分嘘。やはり本当のことは話せなかった。

 マサには嘘ついちゃったよ。ごめんね。マサは言いにくいことを話してくれたのにね。でも、やっぱり本当のことなんて言えないよ。だって私は仁の弱みに付け込んだ。最悪な方法で玲奈と仁を引き裂いた……。

 そんな自分より、マサの方がずっとまともな人間だとアオイは思った。もちろん、親友の彼女を寝取って褒められることなど普通はないのだが。それでも。
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