秘め恋
仁と結婚後、玲奈とは疎遠になっていた。
仁との結婚式に参加した玲奈は、アオイにおめでとうと言い二人の結婚を祝福した。それは表面的だったり周囲の参列者の目を気にして取り繕った体(てい)でもなく、心から発せられたものだったと思う。
とはいえ、やはり罪悪感は拭えなかったのでアオイは玲奈に極力連絡をしなかったし、玲奈の方から連絡が来るとしても短文のラインが来る程度だった。そのたび返事はしたが話を引き延ばさないよう気をつけていたし、どちらかともなく様子を伺うように、互いに電話や直接会うことは避けてきた。
友人なのかどうか分からない曖昧な線で関係を保っている。それでいいと思った。
そこへ電話が来たとなると、嫌な緊張感とあらゆる不安でアオイの胸は埋め尽くされた。玲奈は、仁の件に連なるこちらへの恨みを思い出しこうして積極的にコンタクトを取ろうとしているのではないだろうか。そう勘繰ってしまう。
それらを全て見越し、真琴は言った。
「かけ直したら? 案外何でもない用事かもよ」
「うん。そうだね」
このまま無視して後々何の連絡だったのだろうと苦しい想像をするよりは、今かけ直した方が楽。アオイは思い切って玲奈に通じる番号を発信した。
一秒も経たないうちに玲奈は電話に出た。待ち構えていたような速さだった。
アオイは思わず唾を飲んだ。心拍数がとたんに上がる。
『アオイ? 久しぶりー。元気にしてる?』
「うん。元気だよ」
平静を装うつもりだったのに答える声がうわずってしまう。玲奈の声は底抜けに明るく、それがかえって嫌な予感をアオイにもたらした。
今すぐ電話を切ってしまいたい衝動を、真琴の顔を見ることで落ち着かせる。アオイの心境を読んだ真琴の表情も気遣わしげに曇った。