秘め恋
相手が玲奈でなかったら、友人として前向きな言葉を伝えたくなるシチュエーションだった。そこで後ろめたくなってしまう自分がただただ苦しい。
こういう気持ちをずっと抱えていかなきゃならないこと、仁を奪った時から覚悟してたはずなのにな。思っていたよりきついね。
電話を切った後も呆然として無口なままのアオイの顔を覗き込み、真琴は声をかけた。
「玲奈ちゃん、何て?」
「好きな人できたから、仁のことはもうこだわらなくていいって……」
「そうなの? よかったね! これでもうアオイは自分の幸せだけ考えていけるよ、うん。時間は流れるんだね」
「そう思うべきだよね……」
憂いたアオイの頭をポンポンと軽く叩き、真琴は新しい酒を注文した。
少ししてアオイと真琴の前にファジーネーブルが置かれる。気だるげな話し口調で明るく乾杯する真琴とファジーネーブルを、アオイは交互に見つめた。
いいんだよね。もう、罪の意識に囚われなくても……。
「そうだよ。アオイは色んなことを乗り越えて仁さんと結婚したんだよ。幸せになれないわけないじゃん。そんな顔してたら、海水浴で可愛いバイト君に心配されるよー」
声にならないアオイの気持ちを鋭く察知した励ましだった。
「さすが臨床心理士の卵だね、真琴は」
「険しい道のりだけどねー、私も頑張るからさ、アオイも頑張ろー」
「あ、酔ってるねだいぶ」
「バイト先が潰れるしねー、飲まにゃやってられん!」
現実と憂い、未来への希望がないまぜになる夜。二人は朝まで飲み明かしたのだった。
アオイの胸中に落ちてきた玲奈の恋愛報告は、朝焼けが薄くしていくかのように感じられた。