秘め恋
一バイトとしての立場を瞬間的に忘れ、マサはアオイをからかった。
「店長、顔真っ赤ですよ。何か変な想像とかしちゃってます?」
「そっ、そんなのしてない! してないからね!?」
必死に言い返すアオイの姿が面白くて、マサは思わず吹き出した。
「あっ、信じてないでしょー!?」
「いえ。なんか店長が面白くって。つい」
「あー、馬鹿にしてるでしょ!」
「馬鹿になんてしてませんよ。ホント」
「もお!」
悔しさなのか気恥ずかしさなのかアオイの頬がみるみる紅潮していくことにある種の満足感を覚えたところで、マサは運転席に乗り込み車を発進させた。
この日までに軽く近所を運転して車の操作には慣れておいたつもりだが、やはり長距離を走るのはこの日が初めてなので多少は緊張する。もちろん運転は楽しみなことでもあるのだが。
「暑くないですか?」
「大丈夫。ちょうどいいよ」
「寒くなったら言って下さいね」
「分かったよ。ありがとう」
自宅を出た時からエアコンをつけていたので、車内には冷えた空気が満ちている。
初の長距離運転に対する高揚感や緊張感であれこれアオイに話しかけてみたものの、マサはどうにも落ち着かない気持ちを持てあました。というのも、よく考えたら女性と二人きりのドライブなど初めてで、それゆえの胸の高鳴りに今さらながら気付いてしまったからである。