秘め恋
運転し始めてからずっと、甘い匂いが鼻をかすめている。アオイの放つ香りだとすぐに分かった。
女の人が車に乗るとこんなに甘い香りがするの!? 聞いてないって!
香水のような主張の強い匂いではない。ボディークリームやシャンプーの類だろうか。たしかに元カノ達も近付くといい匂いがしたが、あの時は高校生だったので車に二人きりという状況に置かれたことはない。
それに、アオイに対して好感度が上がりつつあるものの女性として見ているつもりはなかった。それなのに、うっかりすると恋の対象にしてしまいたくなるような匂い。
不覚にもドキッとしてしまう。
よく考えたら、近頃めっきり女性関係は枯渇している。リオとのゴタゴタがあって以降、そもそもそういう気分になれなかった。
大学での新生活や人生初の一人暮らしで余裕がなかったことに加え、イクトからの攻撃や彼との仲直り。
そうでなくてもそれまでに遊び尽くしたので、リオの件でのトラウマも重なり性欲なんて根こそぎ無くなってしまったのだと考えていた。
自分がそこまでデリケートな神経を持っているとは思わなかったが、そんな欲求ないならない方がいいので、自分の変化をあっさり受け入れた。これで余計なトラブルを産まずにすむ。そう思うと安心すらした。
そう思ってたのに、何で今!? 相手は店長だよ!?
隣に座るアオイに気付かれないよう、体の反応を鎮めようとマサは気合い(?)を入れた。だが、そんな努力はないにも等しい。はっきり言うと無意味だった。
「目的地まで一時間以上かかりますけど、コンビニ寄りたくなったら言って下さいね」
あれこれ言葉を振ることで、こちらの異変をアオイに悟られないようにした。