秘め恋
それに、年上なはずのこの店長にはひたすら色気がない。顔立ちは整っているのだが、女を匂わす何かが足りない。
かといって地味かと言えばそうでもなく、時々独身らしき男性客にナンパされているのでモテない女というわけでもない。今も若いが、十代の頃はもっと色んな男の目を引いたんだろうなと思うほどには整った顔をしている。
でも、ありえないほど男の影を見せないというか、感じさせないというか。
この人、既婚者だよね? 本当に旦那いるの?
店長は不思議な女だとマサは内心思っていた。もちろん口には出さないが。
心の中で勝手にアオイへのジャッジをすませ、マサは気だるげに会話を続けた。
「去年の話なんですけど、ちょうど今頃ですかねー。親友の彼女とヤッちゃったんですよ」
「ほ、本当に!? そ、そんなことが……」
「なんか新鮮な反応です、それ」
客足も減り落ち着く時間帯。店長と二人きりのシフト。特に話すこともないので、マサは雑談の延長といった心持ちでアオイの質問に答えることにした。内容が内容なので、重くならないよう軽口を意識して。
しかし、やめておけばよかった。
大人のわりにアオイは同世代のように話しやすい。だけど一応店長で女性だ。こんな話には嫌悪感を覚えたに違いない。現に、普段自分の立場を自覚して凛々しくあろうとしているのであろう店長の頬はマサの話を耳にした瞬間真っ赤に染まり言葉を詰まらせ、困ったように目を伏せてしまった。
やっぱりこの人、イメージ通り色恋系の話は苦手なのかもしれない。年上だし旦那持ちって言ってたけど、実はほとんど恋愛経験ないのかも。
苦手な人間相手に身の上話をしてしまったことを、マサは少し後悔した。