秘め恋

 運転中でも飲みやすいよう、あらかじめ蓋が緩めてある。受け取ったお茶をドリンクホルダーに差し込み、マサは苦笑した。

「ありがとうございます。さすが既婚者。気遣いが行き届いてますね」

「そんなことないよ、普通普通!」

「ですかね。でも、こんなことする女の人初めて」

「それが普通だよ。私が特殊っていうか。職業柄?」

「あー、なんか分かります。接客業してると自然と他人に気を回しますよね。俺も、友達んち行った時とか無意識に友達の食べ物まで取り分けたりしちゃってて。バイト中か! ってツッコミ受けまくってますよ」

「そうなんだ。分かるかも。でも、バイト関係なく元々そんな感じに見えるよマサって」

 会話が弾む。

 始めは自分の気持ちから逃げるための話題作りだったのに、自然と楽しい時間になっていた。相手がバイト先の店長だからなのだと思った。

 大人だから気を遣ってくれてるんだろうな。旦那いるからある程度男心も分かってるんだろうし。

 アオイが既婚者なのだと強く意識することで、マサは自分の中に湧いた疑問を忘れようとした。

 どうして指輪をしてるんだろう。仕事中はしてないのに。

 分かっている。カフェでの仕事中に指輪をしていたら不衛生だし邪魔にもなる。最悪失くしてしまうかもしれない。
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