秘め恋
「それもそうですよね。じゃあ俺ってなんかイレギュラーなことしちゃいましたね。普通バイト先の店長をこんなことに誘うなんて、よく考えたらありえないし」
マサは自嘲の笑みを浮かべる。アオイも似たような顔をした。
「立場上仕事中に頼ってもらえるのは当然のことで、だから、そこを離れたら私は皆にとって勤め先の店長でしかないわけで。だから本当に嬉しかったよ。プライベートでマサに頼ってもらえたこと。マサに彼女がいないことには驚きだったけどね」
「そうですかね。そんな相手最近ずっといませんよ。全然」
無意識のうちに「全然」を強調していた。
「大学で出会いとかないの?」
「ないですよ。同じサークルの女の子は皆彼氏いるか恋愛興味なくて趣味に走ってる子ばっかだし、学校では男とばっか行動してます」
「そうなんだ。それはそれで楽しそうだね」
「まあ、そうですね。友達の存在って大きいです。イクトとあんなことがあって思い知りました」
「イクト君って、この後海で会う親友の子だよね。マサ大丈夫? 仲直りしたとはいえ、イクト君と顔合わせるのやっぱり不安だよね」
親友を裏切った自分にここまで優しく理解を示してくれる人が、まだいるなんて。衝撃で、マサの胸は射抜かれた。
アオイが同行してくれるのでまだ気が楽だが、イクトの本心が見えないまま彼の真意をあれこれ憶測するのは憂鬱だった。突然友好的になったイクトへの疑念は仲直りするにあたり邪魔でしかないので無視してきたし、アオイにも話さないでおいた。
だが、見ないようにすればするほど疑念は不安に変わり胸を揺り動かす。