秘め恋
「そうだよね。そういうものだよね」
安堵の息をつき、アオイは自分のお茶を飲んだ。かと思えば、それはマサの口つけたお茶だった。
助手席と運転席の間には二つのドリンクホルダーがある。なので間違えてしまったようだ。
「ごめんっ、マサのやつ飲んじゃった」
「いいですよ別に」
何も気にしていません。そんな素振りで答えたものの、マサは内心ドキドキした。
間接キスでときめくって、小学生かよ。
アオイがわざと間違えたのならいいのに。そう思ってしまう。
アホか。あるわけない。店長に限ってそんなの……。
マサが思考している時、アオイもまた何かを考え込んでいるようだった。
弾んでいた会話は途切れ、車の走行音だけが二人の耳に触れ続ける。
アオイは助手席側の窓を見たまま沈黙を破った。
「ねえ、マサ」
「はい?」
マサはアオイをいちべつした。顔をそむけたまま話しかけてくるなんて、基本的に人の顔を見て話す店長らしくないと思いながら。
「友達になってくれないかな? もし、マサが嫌じゃなければ」
改まった口調で何を告げるのかと思えば、アオイの発言はそこまで驚くほどのものでもなかった。女友達なら大学にもいるし、さして抵抗するほどのことでもない。
それに、今はアオイに対して親しみが湧いている。