秘め恋

「そうだよね。そういうものだよね」

 安堵の息をつき、アオイは自分のお茶を飲んだ。かと思えば、それはマサの口つけたお茶だった。

 助手席と運転席の間には二つのドリンクホルダーがある。なので間違えてしまったようだ。

「ごめんっ、マサのやつ飲んじゃった」

「いいですよ別に」

 何も気にしていません。そんな素振りで答えたものの、マサは内心ドキドキした。

 間接キスでときめくって、小学生かよ。

 アオイがわざと間違えたのならいいのに。そう思ってしまう。

 アホか。あるわけない。店長に限ってそんなの……。

 マサが思考している時、アオイもまた何かを考え込んでいるようだった。

 弾んでいた会話は途切れ、車の走行音だけが二人の耳に触れ続ける。

 アオイは助手席側の窓を見たまま沈黙を破った。

「ねえ、マサ」

「はい?」

 マサはアオイをいちべつした。顔をそむけたまま話しかけてくるなんて、基本的に人の顔を見て話す店長らしくないと思いながら。

「友達になってくれないかな? もし、マサが嫌じゃなければ」

 改まった口調で何を告げるのかと思えば、アオイの発言はそこまで驚くほどのものでもなかった。女友達なら大学にもいるし、さして抵抗するほどのことでもない。

 それに、今はアオイに対して親しみが湧いている。
< 67 / 186 >

この作品をシェア

pagetop