秘め恋
「どっちだよー。呼んでほしいのかほしくないのか」
「呼んでほしい! ほしいけど、なんかね……。旦那さん以外の男の人に名前を呼ばれるのってすごく久しぶりだから、変に緊張するのかなぁ。こんなの変だよね」
アオイはエアコンで冷えた両手を頬に当て、自らの熱を冷まそうとしている。その仕草はマサの目に可愛く映った。
俺だって恥ずかしいよ、店長の名前呼ぶなんて。変なの……。元カノのことだって普通に名前で呼んでたはずなのに。照れる要素なんてどこにもないのに。
「旦那さんは旦那さんでしょ。俺のは別枠ってことで」
「そ、そうだよね。友達と旦那さんは別物だもんね。うん、分かった!」
その気合いの入れ方、地味に傷つくんですけど。
心の中で言い返し、マサは小さくため息をついた。どこに傷つくのか、あまり考えたくない。
久しぶりに気持ちが高鳴る。これは、まともに初めて長距離運転をする高揚と緊張ゆえなのだと、マサは思いたかった。
まるで心電図の線みたいに絶え間なく上下する心の線とは裏腹に、マサはいたって平然と運転しアオイと会話した。そのおかげで、二人の間には何事もなく穏やかな時間が流れた。アオイは終始楽しそうに笑っていた。
そんな彼女を見て、マサは満足と不満足を覚えた。